鍼灸(しんきゅう)って、なんか古いイメージ。おじいちゃん・おばあちゃんが通っているみたいな…。そんなイメージをお持ちの方、多いのではないでしょうか?
TVや雑誌、インスタとかでもよく見かける「美容鍼」は気になってたけど、そもそも鍼灸がどんな治療なのかとか、どこがどう良くなるのかとかは全く知らない…。そんな方もきっと多いと思います。
実際、当院にいらっしゃる方のほとんどが、鍼灸を初めて受けた方ばかりです。ですからこのページでは、そんな鍼灸治療が初心者の方のために、少しでもご不安や疑問を解消できるよう、分かりやすく解説していきます。
鍼灸って本当に効果あるの?
はい、あります!今や鍼灸治療は、日本や中国、韓国だけで盛んな治療法ではありません。むしろ、西洋医学の中心である欧米諸国が、国家レベルで注目している治療法なのです。事実、アメリカではNIH(国立衛生研究所)が、ドイツではBMG(連邦保健省)が、イギリスでは医師会が、そして世界ではWHO(世界保健機関)が鍼灸の有効性を認めています。
どんな分野でも同じですが、本当に良いものでなければ「時の試練」には耐えられません。その点鍼灸は、既に2,000年以上の歴史があります。「なぜ鍼灸が効くのか?どう効いているのか?」といった謎も、科学の進歩によってようやく近年解明されてきています。
鍼灸のメカニズム
1.体に備わった鎮痛システムの活性化
- 局所での効果(モルヒネのような高い鎮痛作用を持つオピオイド受容体などの放出)
- 脊髄での効果(別の神経繊維を興奮させることによる痛覚の伝達抑制)
- 脳での効果(オピオイド受容体による鎮痛、中脳・延髄での痛みの伝導抑制など)
2.筋緊張の緩和
脊髄反射、脳を介した張力の調整
3.血流の改善
軸索反射を通じた血管の拡張、視床下部を介した全身の血流改善
4.自律神経系の調整
脳幹、内臓に伝わることによる副交感神経優位
5.免疫系の活性化
NK細胞の活性化、サイトカインの放出
鍼灸はどんな症状に効くの?
WHO(世界保健機関)は、43もの疾患に鍼灸が有効であると発表しています。特に、ストレスによる症状や原因の特定できない症状、慢性的な症状など、西洋医学が苦手としている分野で鍼灸治療は積極的に導入されています。
ではなぜ1つの治療法がそれほど多くの疾患に有効なのでしょうか?それは、鍼灸が病気そのものを攻撃・除去するのではなく、本来体に備わっている「治ろうとする力(自然治癒力)」、「抵抗しようとする力(免疫力)」、そして「健康な状態でいようとする力(恒常性)」を引き出すからです。
そのため、頭痛で鍼灸治療を受けていたら肩こりや便秘も解消した、鍼灸を受け始めたら風邪をひかなくなった、といったことが鍼灸ではよく起こります。これは、鍼灸の刺激によって血行や内臓の調子などがよくなり、体全体の健康度がアップしたからです。その結果として頭痛や肩こりなどの症状も改善されていくのです。
西洋医学との違い
西洋医学 | 東洋医学(鍼灸) | |
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向き合うもの | 病気、病原菌 | 患者さんの全身・心身の状態 |
特徴 |
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治療法 |
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得意な分野 |
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西洋医学と東洋医学はそれぞれ得手・不得手があります。ですから、どちらが優れているという話ではなく、相互に補完し合う関係となっています。
そんな中で、東洋医学の特徴を端的に現す言葉として「心身一如(しんしんいちにょ)」と「未病(みびょう)」という概念があります。心身一如とは、心と体は表裏一体でお互いに強く影響し合う、という考え方です。現代社会では、慢性腰痛や不眠症など、心の疲れが体に悪影響を及ぼしている症状が増えています。
また未病とは、なんとなくカラダの調子が悪く、放っておくと病気になる可能性が高い状態のことを指します。鍼灸では、病気になる前のこうした未病の時点で体を整え、健康を取り戻すことが重要である、という予防思想が古くからあるのです。
東洋医学の考え方
鍼灸は2,000年以上の歴史の中で、実際に試してみてその反応を見る、といった繰り返しによってノウハウが体系化された医学です。
例えば、女性であれば月経を整えることが重要であり、消耗の激しい胃腸や滞りやすい下肢の血行を良くすることが重要である、ということが経験則によって分かっています。そして、それらをどう整えるかもノウハウとして蓄積されているのです。
そんな鍼灸医学を含む、東洋医学全体の思想としては「陰陽」や「気血水」などが基本的な哲学となっています。
陰陽
人体を含め、万物には「陰(ー)」と「陽(+)」の2つの相対するものがあり、しかもそれらが調和して成り立っている、とする考え方です。ですから、例えば頑張る時もあれば、頑張らずに息抜きをする時も必要で、両方ないといけない、というのが東洋医学的な考え方です。
そのため、治療においては陰陽のバランスを整えることで健康な状態へと導いていきます。
陽 | 陰 |
---|---|
天 | 地 |
昼 | 夜 |
晴 | 雨 |
太陽 | 月 |
男 | 女 |
動 | 静 |
速 | 遅 |
興奮 | 鎮静 |
熱 | 寒 |
表 | 裏 |
上半身 | 下半身 |
陽 | 天 | 昼 | 晴 | 太陽 | 男 | 動 | 速 | 興奮 | 熱 | 表 | 上半身 |
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陰 | 地 | 夜 | 雨 | 月 | 女 | 静 | 遅 | 鎮静 | 寒 | 裏 | 下半身 |
気血水
東洋医学では、気・血・水の3つが、過不足なく、滞ることなく体内を正常に巡ることで健康が保たれる、と考えています。そのため治療では、血液やリンパ液の滞りを解消したり、逆に気がこもっているのを逃がしたりして循環を整えていきます。
中でも「気」は、東洋医学ならではの概念のため、一見「?」に感じるかもしれません。ですが、「気配を感じる」「元気が湧いてくる」「覇気がある」など、私たちは普段から何となく「気」を感じ、言葉に表しています。同じように、「エネルギー」や「カロリー」なども「気」の一つの形態です。
要素 | 状態 | 病態 | 症状 |
---|---|---|---|
気 | 不足 | 気虚 | だるさ、疲れやすさ、気力低下、食欲不振、日中の眠気など |
停滞 | 気滞 | 抑うつ、喉のつかえ感、お腹の張りなど | |
上逆 | 気逆 | 発作性の頭痛、動悸発作、げっぷ、不安や焦りなど | |
血 | 不足 | 血虚 | 皮膚の乾燥、肌荒れ、抜け毛、過少月経、眼精疲労など |
停滞 | 瘀血 | 不眠症、目のクマ、月経痛、過多月経、痔、下腹部痛など | |
水 | 不足 | 乏津液 | 皮膚の乾燥、口の渇き、空咳など |
停滞 | 水滞 | むくみ、体の重さ、めまい、立ちくらみ、水様の鼻汁、下痢など |